サントリーの組織変革は「戻れる」のか
サントリーの西田新社長が打ち出した組織変革が話題です。酒類事業を従来の事業部制から「機能軸」に移行するという大胆な判断。具体的には、ビールやウイスキーといった商品カテゴリーごとに分かれていた組織を、マーケティングや生産といった機能ごとに再編する動きです。
このニュースを「戻れる経営」の視点で見ると、非常に興味深いポイントがあります。西田社長自身が「変革には痛みが伴う」と語る一方で、組織変革における「可逆性」についての示唆が隠されているからです。
なぜ「機能軸」への移行が注目されるのか
酒類業界は今、かつてない変革期にあります。酒税の一本化や消費者の嗜好の多様化、そして何よりビール市場の縮小。これまで各事業部が独立して戦略を立てていた体制では、全社最適な判断が難しくなっていました。
そこでサントリーが選んだのが「機能軸」への移行です。マーケティング、営業、生産といった機能ごとに組織を再編することで、リソースの重複を排除し、全社的なシナジーを生み出す狙いがあります。
中小企業が組織改革で「戻れなくなる」3つのケース
しかし、ここで中小企業の経営者に考えてほしいのは、組織改革には常に「戻れなくなるリスク」が潜んでいるということです。サントリーのような大企業と違い、中小企業には改革を失敗した時の余裕が限られています。
人に役割を固定してしまうリスク
組織改革で最も危険なのは、人に役割を固定してしまうことです。「あなたはこれからマーケティング部長です」と決めてしまうと、その人が期待通りに機能しなかった場合、後戻りが難しくなります。
サントリーのケースで言えば、機能軸への移行は「人が機能に合わせる」設計です。これは「機能に人が合わせる」のか「人に機能を合わせる」のかという違いがあります。前者であれば、人が変わっても機能は維持できるため、可逆性が高まります。
制度や契約で責任を曖昧にすること
組織改革の際に新たな役割や責任範囲を定義しますが、これがあいまいだと後戻りが困難になります。「とりあえずこの部署でやってみよう」という曖昧なスタートは、後で「誰が何を決めるのか」が不明瞭になり、改革そのものが頓挫する原因になります。
実態を把握しないまま進めること
「機能軸に変えれば効率が上がるはず」という思い込みだけで進めるのは危険です。実際に現場で起きている業務の流れや、顧客との接点、情報の伝達経路を観測せずに改革を進めると、想定外の弊害が生まれます。
「戻れる組織改革」の3つの条件
では、中小企業の経営者がサントリーの事例から学ぶべき「戻れる組織改革」の条件とは何でしょうか。
1. 評価期間を先に決める
組織改革を始める前に、「いつまでに、何を基準に判断するのか」を決めておきます。「3ヶ月後に売上目標の達成度を評価する」といった具体的な評価期間を設定することで、改革の効果を客観的に測ることができます。
2. 観測すべきポイントを明確にする
改革の効果を測るために、何を観測するのかを事前に決めておきます。例えば「部門間の情報共有の頻度」「顧客対応のスピード」「社員の満足度」など、定量的・定性的な指標を設定します。
3. 失敗した場合の戻し方を決めておく
これが最も重要です。改革がうまくいかなかった場合、どこまで戻すのか、どの部分を修正するのかを事前に決めておきます。すべてを元に戻すのか、一部だけ修正するのか、撤退条件を明確にしておくことで、心理的なハードルが下がります。
サントリーの改革に学ぶ「可逆性」の本質
サントリーの西田社長は「変革は実験だ」とも言います。まさに「戻れる経営」の本質です。組織改革を「決定」ではなく「実験」として捉えることで、失敗した時のダメージを最小限に抑えられます。
機能軸への移行が「戻れる」理由
機能軸への移行は、一見すると大きな変更に見えますが、実は「戻れる」設計になっています。なぜなら、機能ごとに組織を再編しても、各機能の責任者はこれまでの事業部の経験を持っているからです。つまり、必要があれば再び事業部制に戻すことも可能です。
これは「人に役割を固定しない」という原則に基づいています。機能軸への移行は「人が機能に合わせる」設計であり、人が変わっても機能は維持できます。
中小企業にできる「戻れる組織改革」の具体策
最後に、中小企業の経営者が今日から実践できる「戻れる組織改革」の具体策を紹介します。
まずは「仮置き」から始める
組織改革を一気に進めるのではなく、まずは「仮置き」として特定の部門だけを機能軸に変更してみる。例えば、マーケティング部門だけを機能別に再編し、3ヶ月間テストする。その結果を見て、全社展開するか、元に戻すかを判断する。
「例外扱い」で始める
組織改革を「本格的な変更」ではなく「例外扱い」としてスタートする。「この部署だけ、3ヶ月間だけ、機能軸でやってみる」という形で始めることで、失敗した時の心理的コストを下げられます。
「戻し方」を最初に決める
改革を始める前に、必ず「戻し方」を決めておきます。「3ヶ月後に売上が前年比90%を下回ったら、元の事業部制に戻す」といった具体的な条件を設定します。
まとめ
サントリーの組織変革は、大企業だからこそできる大胆な判断かもしれません。しかし、その本質にある「可逆性」の考え方は、中小企業こそ取り入れるべきものです。
組織改革は「決定」ではなく「実験」として捉え、評価期間・観測ポイント・戻し方を事前に決めておく。これこそが「戻れる経営」の真髄です。
失敗を前提に設計することで、むしろ大胆なチャレンジが可能になります。あなたの会社の組織改革も、まずは「戻れる形」から始めてみてはいかがでしょうか。


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